April 18, 2004 | イラク問題について,ふたことめ

イラクで人質になっていた方々5人が相次いで解放されました。ひとまず解決,ということで日本中に安堵感が漂っているようです。と同時に,待ってましたとばかりの自己責任論の大合唱。私にはちょっと違和感を覚えます。政府関係者が発言するのはまあ彼等の立場からわからんでもないですが(それでもレベルの低い発言ではありますけど),本来中立なはずの有識者(と呼ばれている不思議な人々)から一般の方々まで,感情的で短絡的な発言が将来自分達の首を絞めることになりかねないのをわかって発言しているのでしょうか? ちょっとうすら寒いです。

いつくか見られる論調から,自分の考えに近いものをひとつ引用します。

■小倉利丸:「イラクとNGO「自己責任」論でいいのか」,朝日新聞 私の視点欄, 2004年4月17日朝刊

そこでは,戦争の当事国から独立したNGOならではの活動が正当に評価されていない。考えてみてほしい。果たして自衛隊や政府が今,劣化ウラン弾の被害調査や貧しい子供たちへの支援をできるだろうか。
ファルージャでは無差別ともいえる米軍の攻撃によって,多数の子どもや市民が犠牲になっている。もし現地にジャーナリストがいなければ,こうした事実は隠されたままで終わるかもしれない。日本政府はイラクへの渡航を禁止したいようだが,それはイラクの密室化にもつながるのだ。(中略)
政策に賛同しないNGOとその活動を,政府がどこまで手助けするのかーーそれがその国の政治や民主主義の成熟度を示すのである。」
自己責任論を展開している人々は総じて,「NGO」や「戦場ジャーナリスト」が何であるか完全に誤解しています。あるいは,完全に無知であると言わざるを得ません。彼等にとって,被害にあった方々はまるで観光か何かに行ったかのような口ぶりです。あるいはよく使われる単語は「ボランティア」。もちろんボランティアも崇高な使命ですが,この場合,事情は「善意の助け合い」だけに矮小化できるものではありません。彼等は「NGO」であり「戦場ジャーナリスト」なのです。自己責任論者は,その観点が完全に欠落しています。

NGOや戦場ジャーナリストがなぜそんな危険な地域に行くのか?という疑問の前に,何故その地域が危険になってしまったのか?それは誰のせいなのか?どうすれば少しでもよりよい将来につなげられるのか?という根源的な問題追求を,自己責任論者は完全に見落としています。あたかも火山の噴火を物見遊山で見に行ったかのように。もしそのような地域にNGOも戦場ジャーナリストもいなくなったら,それはそれで政府や戦争当時者には好都合でしょう。都合の悪いものは全て隠蔽出来るわけですから。そうなるのを防ぐために,NGOや戦場ジャーナリストの方々は文字どおり命を賭けてそこに行くわけです。そういった背景を全く無視して,安全なところからぬくぬくと自己責任論を唱える人たちは,自分たちが思いつきで安易に感情的に唱えた言論が,まさしく権力者に都合のよいように利用され,結果的に自分達の首を絞めることになりかねないことをちゃんと理解しているのでしょうか? 

小泉首相の被害者への叱責発言。あれは首相の立場としてはあながち間違った見解ではありません。とかく政府は自分たちの意のままにならないNGOや戦場ジャーナリストを存在や行動を煙たがりますから。しかしそれを感情的に発言するのは政治家としては失格です。いや,もしかして世論操作を狙ってワザと感情的に発言したとしたら,それはもうゲッペルス並の計算づくですね。それはそれで天晴れ。そして,まんまとその感情的な世論操作に多くの一般市民が同調してしまう・・・。これは本当に恐ろしいことです。NGOやジャーナリストはチョロチョロするな。・・・その究極の行き着く先は,「1984」の警察国家やまさしく旧フセイン政権のような独裁国家に他なりません。日本をあまねく覆いつつある市井の自己責任論者は,それを望んでいるのでしょうか? どうか,一時の感情論ではなく,冷静に理性的に考えて貰いたいものです。


最後に。今回は拉致されたのが「たまたま」民間人だったので,悲劇的な結果に終わらず無事解決を見たようですが,同様の事件が再発する危険性はまだまだ減ったわけであはりません。今後,政府関係者や自衛隊員に人的被害が出た場合,政府はどのように対応するのでしょうか? 世の自己責任論者はどのようないいわけをするのでしょうか? そうなる前に手を下すべき最善の策はただひとつ。「テロに屈して」でなく「世論に屈して」自衛隊を速やかに撤退すること。アメリカ占領政策に追従することが間違いだったと素直に認めること。それが国際社会に真の意味で貢献する最善の策ではないかと思います。

Category: 6. politics
追記

お知り合いのブログの中から,イラク関連問題について言及されている記事を以下に列挙します。

異文化理解の困難は by WindCalmさん
自衛隊撤退の好機 by WindCalmさん
新潮 、文春の「表現の自由」 by Qyouさん
解放された渡辺氏 by zairyoyaFX さん

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