April 12, 2004 | 「ヨコハマ買い出し紀行」,あるいは美しく老いる未来。
「ヨコハマ買い出し紀行」の11巻が出た。正確には,3月に発売されてたのをうっかり忘れてたのをぽた子さんが買って来てくれたのデス。ありがたや〜。「ヨコハマ買い出し紀行」は読むとホッとしすね。特に最近仕事でトラブルがあり,ストレスもだいぶ溜まっていたので,こういうとき頭をクールダウンさせるには最適なマンガやね(そして最適なタイミングをありがとう〜>ぽた子さん)。
■芦奈野ひとし:「ヨコハマ買い出し紀行」 第11巻,講談社アフタヌーンコミックス
このマンガは「流れる時間の速度」という点において,他のマンガから遠く距離を置く極北の特異点であると言える。流れる時間の「ゆるさ」。ストーリー展開もあるようでないようで,台詞もほとんど存在しないコマが淡々と流れる。単に現実に疲れたぬるい癒し系でもない。ある種の諦観が通奏低音に流れる,毅然とした「ゆるさ」なのだ。これは並のマンガや小説では到底到達し得ない孤高の頂ではないだろうか。
このマンガの魅力は実は,極めて人間的なのんびり屋の美少女型ロボットにあるのではなく,その主人公たちをとりまく特異な時代設定にあるのではないか,と少なくとも私は考える。大きな自然災害か何かで(物語中ではそれは断片的に暗示的にしか示されない)人口が激減し,物流や通信が殆ど途絶えた世界。ロボットや電気スクーター,ジェット推進船などテクノロジーの残滓は垣間見られるが,妙にレトロで鄙びた生活。しかし,争いも対立もなく静かに達観した人々・・・。このマンガのテーマは,実は「老い」なのだ。しかも,美しく迎える人生の最期,これこそがこのマンガの魅力にほかならない。
水没した街に灯る電灯,鬱蒼としたススキ野を縫って走るトラム,草むらに飲み込まれつつも稼働する自動販売機・・・。この著者の偏愛的なテクノロジーのモチーフに対して,そのインフラストラクチャーは誰がどうやって支えているのか?と冷静に反論することももちろん可能である。飢餓や犯罪もない世界はもしかしたらご都合主義に映るかも知れない。しかし,そのようなSF論的指摘はここでは野暮というもの。ここは,カタストロフのあとの死を迎えるまでのつかの間の,そして永遠のユートピアなのだ。登場人物はみな抑制的で柔和で,しかしどこか憂いを秘め,老人も子供も(そしてロボットも)すでに悟りの境地に達しているように見える。そうした覚悟を決めた「ゆるい」時間が静かに流れる。美しく老いる未来。
このマンガを読んでいて,単に一過性のストレス解消ではなく,不思議と穏やかで前向きな感情が湧いてくるのはそのせいかも知れない。私も,早く,静かに美しく老いたい。